冒頭でも触れましたが、4月の4週目くらいからウグイス、カワラヒワ、アオジ、 ツツドリ、トラツグミ、アカハラ、キジバト、ルリビタキなど夏鳥たちの姿が市内各地で目立つようになりました。特にルリビタキは、このところ小樽でずいぶんたくさん見られるようです。ルリビタキは「幸せの青い鳥」のモデルになったと言われている鳥ですが、皆さんのお庭にも姿を見せるかもしれません。なえぼ公園ではキクイタダキやミソサザイが連日かわいらしい姿を見せてくれています。なえぼ公園内を流れる二ツ目川の河畔ではミソサザイのよく通る「チュリリリ…」というさえずりが響いていました。
春の花も、沢の斜面など雪解けの早い場所から少しずつ咲きそろってきています。フキノトウ、フクジュソウ、カタクリ、キクザキイチゲ、エゾエンゴサク、エンレイソウ、ナニワズ、キバナノアマナ、エゾノリュウキンカなどが次々に開花しており、小樽の森は急ににぎやかになってきました。オオウバユリやヨブスマソウの独特の形の芽吹きや、厳しい冬を耐えて活動を再開しはじめたエルタテハやクジャクチョウなどの姿も、野歩きの目を楽しませてくれます。なえぼ公園のカタクリは今がまさに見頃です。奥沢水源地や赤岩山など少し標高の高い場所ではまだまだしばらくの間、早春の花を楽しめそうです。
先日、奥沢水源地でクマゲラの巨大な採餌痕を見つけました。カラマツの植林地の中の一本の木に70センチほどの長方形の掘りあとが空き、木の根本にはバケツいっぱい分ほどの掘りくずが積もっていました。また、なえぼ公園でも古いサクラの朽ち木を掘るクマゲラの姿を目にしました。手が届くほど間近に現れた真っ黒い姿は、光を吸い込んでしまうような神秘的な雰囲気を醸し出していました。
天然記念物にも指定され、北海道でも数百羽しかいないと言われているクマゲラですが、小樽市内では赤岩山や天狗山周辺で姿を見かけることができます。なえぼ公園ではここ数年ずいぶん頻繁に人前に現れ、遊歩道のすぐ脇で巣作りをしたこともありました(繁殖はできなかったようですが)。奥沢水源地でも春先などに時々姿を見ることがありますが、こんなに生々しい食痕を見たのは今回が初め
てのことでした。
クマゲラはムネアカオオアリという大型のアリを主食にしていることが知られています。以前拾ったクマゲラの糞はほとんどすべてムネアカオオアリの体でできていました。アリには蟻酸という強い酸性の成分がありますが、アリを食べるキツツキ類の口内にはアルカリ性の分泌液を出す腺を持っており、飲み込む前に中和するのだそうです。樹木の中心部に巣を作るムネアカオオアリを食べるために、クマゲラは独特の「舟形」の掘りあとを残します。クマゲラは「チプタチカップカムイ(丸木舟を彫る神)」と呼ばれ、この掘りあとを見てアイヌは丸木船を作ることを思いついたという言い伝えがあります。他にこのような痕を残す動物はいませんから、クマゲラの生息を知るのに大変有効です。なえぼ公園もそうですが、小樽にはカラマツやトドマツの古い造林地が多く、このような場所でよくクマゲラの食痕を見ます。
木々が芽吹き、子育てが始まると、クマゲラが人前に現れる回数はぐっと少なくなります。彼らが安心して子育てをすることができるような森が、いつまでも小樽にあることを願ってやみません。
<博物館メールマガジン第85号より>