十字架状に巻きついた「蔦(つた)」との出会い、弟の急死に即発されたモチーフの作品作りから、小樽の職人の技が活かされたブロンズ像の「IVY CROSS(アイビークロス)」が生まれ、この作品がイタリアのアッシジの大聖堂に昨年に納められた。
ローマから北へ急行列車で2時間。古都市アッシジの修道院「聖フランチェスコ大聖堂」に、紋別市在住の池澤康夫一級建築士がデザインし、小樽市内長橋にある「株式会社木下合金」(木下修代表取締役社長)作製のブロンズを使った「アイビークロス(蔦の十字架)」が飾られている。
これは、池澤さんが、十字架状に巻きついた「蔦(つた)」に出会い、急死したクリスチャンの弟敬八さんへの思いなどから、作品を作りたいという思いが強くなった。仲間に話してみると「そんなもの作れるわけがない」。陶芸家を訪れてみては失敗した折、知人から小樽の鋳物工場「株式会社木下合金」を紹介された。
同工場では、「アイビークロス(つたの十字架)」を作るのに、ロストワックス鋳造法を使用した。これは代表的な精密鋳造法。最初に目的物と同じ形状の模型をワックスで作る。周囲を石膏で固め、加熱してワックス型を消失させた後の空間に溶湯を注ぎ、冷却して目的の形の鋳物を製造する。木下社長は「失敗に終わるかもしれませんよ」と念を押した。
数ヶ月後に、小樽の職人技で出来上がったブロンズ像との対面は、「感動。言葉が出なかった。学生時代建築工学科で彫刻を学んでいたことも幸いしたが、最後は鋳込技術者の腕としか言いようがない。改めて職人の技術に感謝。自然物は、それ自体人格を持たないが、アーティストの手を経て作品に生まれ変わる時、芸術作品として人格を得、著作権が生まれる」と話す。
作品が出来上がってから、札幌の知人である神父に、「イタリアのアッシジに持って行ったら、興味を示してくれるのでは」と示唆された。愛と平和に生きた聖フランチェスコゆかりの修道院「聖フランチェスコ大聖堂」のヴィンセント・コーリー院長と手紙やメールでやりとりをした。「ぜひ、その作品がほしい」と言われ、池澤さんはイタリアに渡り、2005(平成17)年7月4日、アッシジの大聖堂に寄贈した。
その時、コーリー院長は、力いっぱい池澤さんの手を握りしめ、説明を聞きながら、ブロンズに刻まれたサインをなぞり続けたという。弟への思いが、小樽の職人技で作られたブロンズに刻まれ、アッシジに、これからも何百年と永久に保存される。
木下社長は「すごいことだと思う。天竺に仏像を持って行くのと同じくらい。単なる飾りじゃない。うれしいよりも恐縮です」と感激していた。
「つるやつたは 己のおもむくまま 自由に動き回る その軌跡は 時として 人間の感性を呼び戻す 池澤康夫」