小樽を代表する作家・伊藤整の直筆の手紙が、小樽文学館へ寄贈されることになり、5月23日(水)18:00より、同館で寄贈式が行われ、保管していた関西学院グリークラブOB「369会」代表から、中松義治小樽市長へ手渡された。
直筆の手紙は、今から50年近く前、1960年6月19日付けの速達便。伊藤氏から、関西学院グリークラブの当時のマネージャー福本喬氏に宛てた封書。当時、同グリークラブでは、伊藤氏の詩集「雪明りの路」の詩に、作曲家・多田武彦氏が曲を付けた男声合唱組曲を委嘱し初演した。この際、東京神田・共立講堂でのリサイタルの招待状を伊藤氏へ送った。多田氏と伊藤氏が出席し、同クラブ100名で歌い上げた。その時の招待状に対する返信と思われる。
詩と音楽に関する所見、「もし私のあのやうな詩が音楽と協力できるならば、私は詩といふものを、それまでと違ったものとして考えることができるのではないか、と思ひます。」などと、中央公論社原稿用紙4枚に書き綴られている。
同会の杉本正和さんは「昨年10月に、伊藤氏の手紙を小樽文学館へ寄贈した方が良いかと、現役の責任者やOB会に相談したところ、このような結果となった。1960年の東京リサイタルでは、伊藤氏と多田氏に男声合唱組曲『雪明りの路』を披露した。伊藤氏は楽屋へ来て『西洋音楽になり、うれしいことはない。詩の活動で新しい取り組みができるか』と話していた」と語った。
中松市長は「心より歓迎し、お礼を申し上げます。書簡は、市民や観光客にも広く、大事に見てもらいたい。伊藤整は、小樽を代表する作家で、来年、15年目となる小樽雪あかりの路のイベントも、是非、ご覧いただきたい」と話した。
会場では、寄贈式に合わせて来樽した関西学院グリークラブOB「369会」当時のメンバー30名が、『雪明りの路』から「春を待つ」・「月夜を歩く」を含めた7曲歌い、50名が聞き入った。
同クラブは、1899年に誕生した日本最古の男声合唱団で、伝統と歴史を誇る。「369会」とは、昭和36年・37年・38年・39年に同大学を卒業した者を意味し、現在、一番若い会員でも70歳だという。当時のメンバー約30名の歌声が館内に響いていた。
歌い終えたメンバーは「当時、本邦初公演で、100名のメンバーで歌った。50年ぶりに会い、みんなで歌い感動した」と当時を懐かしんでいた。
同館の玉川副館長は「雪明りの路は、特別な思い出深い作品で、案内状が来て、便箋4枚も書いたということは、大変喜んだのだと思う。ゆかり深い手紙だということで、経緯としても珍しく、大勢の方に見てもらいたい。宝のようにして下さったと思い、大変ありがたく思う」と話した。