特別講演会「とことん知りたい樽病新築」が、10月22日(金)18:30からマリンホール(色内2)で開催された。
小樽商科大学ビジネススクール・パブリックマネジメント研究会と小樽市医師会(津田哲哉会長)の共催。市が進める新病院建設は「コンパクトで安価に」と提案する医師会が、「小樽市には、日本国内での公的な病院の建設方法、運営方法の実例に学び、合理的な再建案に練り直して頂きたい」と企画した。
会場には、新病院問題に関心を寄せる市民や医師・看護師などの医療関係者、市議会議員、市職員など約300人が集まった。来場者の中に、当事者の市の病院担当職員の姿は見られな かった。
講演は、北海道大学公共政策学研究センター研究員で元福島県三春町職員として、町立 病院の再建に関わり、建設費を民間並みにして、新築と公設民営化による経営合理化に成功した遠藤誠作氏が行った。
「3月まで役場職員だったので、役場職員の戯言だと思って聞いてください。今は非常に大変な時代で、どこの役所にも金がない、国も同じ。インター ネット購買とかでパチンコ台まで売って何十万の金をつくるが、片っ方で100億の事業をやってしまう。病院の場合は金額が大きい。それをどう考え ていくのかが問題。病院は、基本的に1年間の医業収益が20億の病院は、20億かけて作らなければ絶対経営出来ない。たとえば事業収益が80億だったら、160億の病院作る時に上回った分はどこから持ってくるのか。
自治体の全体の予算から先にとるのは月給分で、2番目には借金の元利償還金をとり、そのほかに学校になんぽ使うとかやって、せいぜい自由になる金は全体の5%しかない。選択を間違えれば街がつぶれる。みんな公務員にしわ寄せがいかない。
私は、県立病院やめるから公立病院をなんとかしてくれと言われた。民間というか農家やって議員やって、首長は中学しか出てないが、腹は切れるなと 思った。へたな大学出ている人よりもはるかに切れる。全権まかせるから良いようにやってくれと言われ、だから3年でやってしまった。新しい病院を つくったが、坪58万でやって、皆さんの家よりも安い。日本の建築単価もそんなもの、スーパーゼネコンはそれでも利益を出している」と挨拶した。
町立三春病院の特色、県立病院との診療体制比較、経営問題の対処、病院対策が成功した理由、公立病院の主たる赤字要因、建築単価、小樽市立病院の現状、公立病院への批判などについて、軽妙な語り口でテンポ良く話しを進め、「結局、人口減、高齢化で変化が激しい時代なのだから、計画に修正が必要なら修正する。完成が5年後なら、さらに切り込んで計画を修正する。儲けなくても良いけど赤字は困る。自分たちのまちづくり、病院はまちづくり。役所に任せていたらだめ。自分が5年で死ぬからいいといっても、息子たちがたまらんと逃げ出す財政状況じゃ大変。必要な医療はなんのか。関係者が集まって議論して決まったら文句言わないで進めないと、議論に20年もかけてたら笑われちゃう」とまとめた。資料
講演後のパネルディスカッションでは、小樽商大・片桐由喜教授が、「小樽市の病院建築における対応と三春町立病院との対応はいくつか大きな違いがあると思う。自治体病院の役割に対する意識について、三春町立病院が基本的な明確な理念を持っていたのが違う。公的医療は、必要にして十分が大事で、不足と過剰の回避をするのが基本的な役割だと思っている。その中で、自治体病院は、不足と過剰を調整するのが大事で、民間が果たせないものを公立が果たす、余剰な部分は関与しないのが役割だと思う。町立病院の建設のプロセスについて透明性があり、住民の合意をえている。小樽市の場合は、数年間の間、すったもんだしている。三春町立病院は対策委員会を設置して、町と他の病院と医師会、市民を巻き込んだ形での議論を積極的に推し進めてきた。小樽市は、全体の合意を得るプロセスが欠けている。三春町は意思決定が大変スピーディー、これはどこから来るのか。小樽市の場合はどうやったらそのスピードを得られるのか」と指摘した。
商大・堺昌彦准教授は、「新市立病院を豪華なものにして、将来的に借金が返せなくなるのは本末転倒だろう。そもそも造る段階でどれだけ投資するかで将来的な負担が決まる。今回の小樽市の計画は10年間が見せられているが、病院は40年間続く中で、その途中が触れられていない。とにかく借りるだけ借りるという観点で計画を進めている。返せる金額だけ借りるというのが健全だが、今のところは考えていない状況だ。今の楽観的な計画では持続が難しい。規模を小さくしなければいけないのは自明。小樽市の病院は、地域で必要なものをつくれば良いので、病床数388と出ているが、これが地域全体で病床数がいくつ必要なのか将来的なことを踏まえて適正な規模なのかかなり疑問。病院の建築コストが非常に高い。市は、このコストを下げることが話しに出ているが、基本設計が終わってから安くなると主張している。今出している平米あたり33万が高い数字で、この数字を出す前に、もっと安い金額で考える必要がある。三春町立病院は、どうやって設計施工一括のプロポーザル方式を取り入れたのか」と述べた。資料
同大・大学院・野村信平さんは、「自治体病院の役割は必要と十分である。現在の市の計画では病床過剰になり、公的な役割を担う公的病院の民業の圧迫につながる。外部環境を含めて、札幌市との連携も必要性がある。将来、介護も非常に重要な問題。市立病院を大きな負債で建てた時に介護の問題はどうなるのか」とした。資料
司会の相内俊一氏は、「3人共通でおっしゃられているが、医療環境を維持するのは、新しい病院を建てることよりも、今ある病院が機能してもらうようにするかで、これまで小樽市と医師会でどういう連携があったのか疑問だ」と述べた。
医師会の高村一郎広報理事は、「ワクチンについては保健所と協議してきちんとやっているが、市立病院の統合については、医師会と小樽市と今年になってから 8月の討論一回です。昨年は一回も正式な討論が開かれていない。残念ながら、新病院新築について意識統一している状況ではありません」と指摘した。
この講演会終了後、小樽市医師会の津田哲哉会長は、「これだけの借金を背負ってやっていけるのか。急性期はカバー出来るが、老人や療養の問題があ る。若い人が逃げちゃえば老後の生活もままならなくなる。市は、過疎債が使えると言って喜んでいるが、過疎債を使えるまでにしたのは誰か。喜んでいるよ うだが恥の上塗り。病院に多額の過疎債を使えば、他のことにも使えなくなる不安がある。本当に借金が出来るのか、必要ベッドはどれくらいが、病院 担当者は他の人の意見を聞く必要があるのに、この場所にいないことは恥ずべきだ」と強い口調で話していた。
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