小樽が生んだプロレタリア作家・小林多喜二の全集未収録作品「スキー」が発見された。市立小樽美術館(色内1)が、4月21日(水)に発表した。
昨年9月、岡山大学大学院生の木戸健太郎さん(35)が、立教大学所蔵国民新聞(マイクロフィルム)を調査中に、1921年10月31日付の新聞から小説「スキー」を発見。「全集未収録と思われるのでコピーを送る」と、同館に知らせた。
小林多喜二の作品については、2007(平成19)年3月に86年ぶりの新発見として、最初期の小説「老いた体操教師」が公開されていた。
このほど発見された「スキー」は、2007(平成19)年に見つかった「老いた体操教師」に続く新発見となり、小樽高商時に書き上げた同時期の作品で、同じ人物をモデルとしている。
作品は、実在した「T先生」が、生徒たちにスキーを習うが、日露戦争で腰を負傷したため、うまく行かず、生徒たちに笑われるという、哀れな先生に同情を感じさせる原稿用紙400文字・6枚半の短編小説。
「老いた体操教師」を発見した日本大学の曾根博義教授は、「先生に寄り添い、哀れな先生に同情を感じさせる、『老いた体操教師』との一番大きな違いであろう。20枚の『老いた体操教師』にくらべて6枚半という短さのせいもあるだろう。『スキー』は、『老いた体操教師』の付録か副産物くらいの価値しかないかもしれない。初出も同年同月だが、発行日をとれば、『老いた体操教師』の方が約一ヶ月早い。しかし、『スキー』の発見は、多喜二が卒業した直後に小樽商業を追われた『T先生』こと富岳丹次先生に多喜二がいかに小説的関心を寄せていたか、おそらくは前に書いて『小説倶楽部』に応募していた『老いた体操教師』にいかに自信を持っていたかを語っている、とはいえるだろう」としている。
同館では、「市立小樽文学館報」33号紙上で、「スキー」全文を復刻し、紹介することにしている。併せて、曾根教授の寄稿文「もう一つの『T先生』もの--新発見の小林多喜二『スキー』について」も収録する。
玉川薫副館長は、「掲載されている『国民新聞』は、小林多喜二の身近にあった新聞ではなかった。地方版をどこかで見て出してみようと思ったのかもしれない。多喜二は巧みであり、非常に関心を寄せていた人物なのに、まったく取り上げる部分が違う。日露戦争で負傷し退役した体育教師は、気の毒でハンディがあり、学校に拾われた。学校の中のトラブルに巻き込まれ辞めさせられるというところに同情を寄せていた。この作品は、最初期のもので、スタートポイントになる。新聞紙面が限られており、完成度は高くないが、多喜二の早熟さは印象深く感じた。良い意味でするどく、メディアに対する敏感さを感じる。17~18歳の実績のない学生だが、巧みだった。当時、文学活動を展開していたとは知られていたが、活動の範囲の視野が広かったということが分かった」と評価する。(写真提供:市立小樽文学館)
◎関連記事