寿司屋通りの下に流れる於古発川(妙見川)の暗渠を取り壊し、河床・護岸の改修後に、再び、暗渠に戻し市営駐車場とする市建設部の「於古発川河川改良工事」の進め方に、大きな波紋が広がっている。
市の「於古発川河川改良工事」は、2008(平成20)年度・2009(平成21)年度・2010(平成22)年度の3ヵ年計画で進められている。河床や護岸が老朽化したための河川改修で、2008(平成20)年度843万円、2009(平成21)年度1,700万円の予算で行っている。
寿司屋通りの市営花穂駐車場は、約40年前に、周辺の要望を受け、川を覆う暗渠にして設置された。現在では、261.25平米 に19台が駐車している。
9月から始まったこの河川改良工事では、この駐車場部分のコンクリートが剥がされ、小樽の歴史を感じさせる見事な石積みの側壁が40年ぶりに顔を覗かせ、水音を立てた川の流れが見られるようになった。
於古発川(妙見川)は、天狗山から緑・花園地区を流れ、現在の妙見市場、寿司屋通りの暗渠の下を通り、運河に辿り着く。この川はかつて小樽郡と高島郡との境界となっていた。川の途中には大正時代に架けられた「たかしまは志」と記された橋が、当時の姿のまま残っており、小樽の昔ながらの情緒あふれる雰囲気を醸し出している。
1962(昭和37)年の豪雨で、妙見川が氾濫したため、国道5号線から山側の川沿いにあった市場がなくなった。河川改修工事が行われるとともに暗渠が作られ、その上に妙見市場が誕生した。国道5号線から海側の約300mも暗渠となり、公園や駐車場などが造られた。
このうち、運河から山側500mは暗渠にされず、一部は当時の石積みの側壁が見え、かつての小樽の姿を眺めることが出来る。
ボランティア団体の「小樽夢の街企画」は、「この妙見川(於古発川)沿いに柳を植え、昔の街並みに戻そう」と活動している。財政難の市に頼らず、市民からの浄財を集めて、歩道にレンガを敷き詰めて整備し、柳を植える街角景観を作ってきた。
2005(平成17)年の第1期工事に200万円、2006(平成18)年の第2期工事に180万円の費用を捻出し、市民の手で小樽らしい景観を創出している。
市民の浄財の中には、「近所の小さな商店の親子から10万円が届けられたが、実行委では、この10万円は受け取れないと返しに行ったところ、母親に『息子がコツコツと貯めたお金で、小樽のためになにかやりたいと出したものだから持って帰って役立てて』と怒られたり、年金暮らしのお年寄りから10万円が届けられたが、これも受け取れないと返しに行ったが、『オレは食っていけるから大丈夫』と言われ、持って帰ってきた」という樽っ子の人情味溢れるエピソードがいくつもある。この整備作業には、市議や市職員もボランティア参加する姿も見られた。関連記事
しかし、この活動が行われている最中、財政難にも関わらず1,700万円もかけて、市営駐車場のコンクリートを剥がして、また灰色のコンクリートを敷くという市の工事が、市民に何らの説明もないまま目下進行中だ。
市は、歴史ある街並みを将来にわたって守るため、平成18年11月に景観法に基づく景観行政団体となり、さらに、景観行政の指針となる『小樽市景観計画』を、平成21年4月から施行している。小樽市景観計画(PDF)
この景観計画で、この地区も小樽歴史景観区域(131.6ha)に入り、基本方針の概念図では、この於古発川(妙見川)の柳並木が、「街角景観」の代表例として写真入りで取り上げられている。こちら
現在、工事が進められている部分は、この柳並木とは川続きでわずかに100mしか離れていない。
於古発川(妙見川)は、「かつて全国の金融機関が進出し、北海道の金融、経済の中心として往時の繁栄をしのばせる『日本銀行地区』」と「商家や倉庫などの比較的低層な歴史的建造物が軒を連ねている『堺町本通地区』」の間に挟まれている。小樽市景観計画
この周辺地区は、「周辺の歴史的建造物を中心とした街並みの連続性に配慮する。敷地を空地や駐車場(青空駐車場含む。)とする場合には、道路側から見えにくくなるよう塀、さく又は植栽などを設け、街並みの連続性に配慮する。」とされている。
この小樽歴史景観区域の「景観形成の基本方針」では、「景観拠点から市街地にのびる主要な道路沿いの景観(沿道景観)や主要な交差点などで見られる景観(街角景観)など、それぞれの特性に応じた街並み景観の形成に努めます」と定めている。
それにも関わらず、コンクリートのフタを剥がして出てきた、当時の雰囲気をしのばせる石積み側壁と自然の川を、わざわざ1,700万円をかけて、街角景観に何の配慮もせず、再びコンクリートで覆い隠そうしている。
市の景観計画によるまちづくりとは何なのか。市民が資金と労力を出し合い創り出している街角景観を、再び破壊しようとしているのは、誰なのか。市民に何の説明もなく、突然に始まったこの河川改良工事に、多くの市民から疑問と批判の声が上がっている。
妙見川を再生する活動に参加する山口保市議は、「妙見川の整備をやっているのだから、市から、この河川工事があるということの話があっても良いのではないかと建設部に言った。しかし、周辺で駐車場が必要という声があって造ったという経過があるというのが市の言い分で、今回は、すでに業者との契約が終わり大きな事業として進んでいるという。将来的にこの駐車場の需要はなくなるので、今後、まちづくりのために、市と妙見町会、寿司屋5店会、小樽夢の街企画と、この場所をどうするかを議論していくことになる。工事の現場を見に行ったが、いい石積みがあることを確認した。妙見川を整備しようと動いている人と会って、せめて、手宮線のところまでの暗渠はなくして整備したい」と話している。
しかし、現在の作業が進行し、フタをされて暗渠になれば、また再び暗渠を取り壊すという作業が必要となり、まさに税金の二重の無駄遣いとなってしまう。
市建設部の竹田文隆部長は、「於古発川の調査は定例的にやっており、河床部分が傷んでいるということで昨年から工事を始めた。於古発川を柳並木にしたいという構想は聞いており、市の職員も一緒に柳を植える作業に参加していた。この川が、市民や観光客が憩える場所になることは良いと思う。しかし、川の全体構想をどうするかという問題があり、ここのスポットだけ議論することは出来ない。すでに駐車場で使っている人もいる。10年ぐらい前に、一時、開渠にしてはどうかという議論があった。整備方法などを話していく上で、具体論としてまとめることが出来なかった。今回の河川工事で色々な意見があるが、ご理解を頂きたい」と言っている。
河床部分が傷んで暗渠部分が老朽化しているという理由で、再び無機質のコンクリートで暗渠化して、街角景観を壊す市営駐車場を復活させる作業を進める市の姿勢は、一般市民には全く理解の出来ないところだ。
駐車場部分の暗渠が老朽化しているのならば、駐車場契約を解約して、自然景観を再生する絶好の機会のはずである。これを、市の建設部は、何故かまたコンクリートで覆い隠そうとしている。
市民は、善意で浄財と労力を提供し、街角景観を創り出しているのに、市は、それらの活動に逆行する工事を実行している。しかも、景観計画で、これらの地域を、「景観形成の核となるシンボル空間の創造。地区の特性を生かした個性的で調和のとれた街並み景観の創造。四季折々の変化や時の移り変わりを大切にした都市景観の創造」とうたっている。
自ら作った景観計画を踏みにじる「於古発川河川改良工事」には、次第に市民の怒りが高まっている。この場所が、小樽市の行政レベルの悪しき象徴として残ってしまうのも間もなくのことだ。
市長は、公約に”市民と協働のまちづくり”をうたい、「市民とともに進める公開・参加・恊働による市政運営の推進」を市民に約束している。しかし、今回の事例には、市民に非公開・市民の不参加・市民との非恊働による市政運営が露呈している。
市長は、直ちに工事を一時延期し、市の景観計画通りに街角景観を形成すべく、指導すべきだろう。この絶好の機会を逃したら、小樽の建設行政は全国の笑いものになり、この工事箇所がその象徴として、長く記憶されることになってしまうのではないか。
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