小樽市総合博物館特別展記念講演「美術に見る蜃気楼」が、8月17日(日)13:30から同館2階研修室で開かれた。
井上研一郎・宮城学院女子大学教授を招いて開催された記念講演は、同館で4月29日から8月18日まで開かれている特別展「蜃気楼の神秘を探る」の締めとして行われた。会場には、約35名の聴衆が参加して、熱心に耳を傾けた。
井上教授は、江戸時代の浮世絵などに描かれた”蜃気楼”という謎の多い現象に視点を置き、作品とともに紹介し、四日市の蜃気楼、菅江眞澄の蜃気楼図、北海道の蜃気楼ー高嶋オバケなどを解説した。
四日市の蜃気楼について、「江戸時代に、四日市は東海道で蜃気楼の代名詞といわれており、その蜃気楼は当時の人の夢や願望でもあった。東海道名所図絵に描かれた四日市の蜃気楼は、旗や幟、吹流しがゆらゆらと揺れている。江戸時代の人にとって、自分達の生活の外にある海の向こうの中国や天竺に、この世にない日常に現れない景色を見ようとしていたのではないかという気がする」と述べた。
また、松浦武四郎「西蝦夷日誌」にある高嶋オバケを紹介し、「高嶋オバケは一級品であり、江戸時代以降、全国的に見てもベスト3に入ってくる。帆掛け舟が荒波をけだてて進んでいる水平線の彼方に、なまなまとローカル風の建物や風にたなびく煙か旗や幟の類が揺らめきながら、立ち上っている。生き生きとした描写である。高嶋オバケは全国的存在である」
そして「蜃気楼を描いた江戸時代の浮世絵を手掛かりに、当時の人がどういう世界観を持っていたか、自然現象をどう捉えていたかを、今後、研究分野の成果を踏まえながら明らかにしていくべきだと思う。全国規模でこの展覧会が開かれることを願っている」と総括した。
浮世絵に表れた蜃気楼という特異な視点からの解説に、参加者から拍手が送られていた。
◎関連記事