小樽市教育委員会(花園5)内に設置されている廃校した3中学校の記念室で、傷だらけで放置されていた“御殿飾り”雛人形が、購入当時の豪華絢爛な姿を取り戻した。堺町通りのメルヘン交差点近くの蔵の人形ギャラリー瀧本(入船1)で、その艶やかな姿を見ることが出来る。
この雛人形は、旧住吉中学校の前身、量徳女子尋常高等小学校時代、父兄会の増田亀吉会長が、昭和14〜16年頃に寄贈したもの。増田氏は、増田九五郎木材商二代目で、京都の丸物デパート(現・近鉄デパート)に依頼して購入したものと推測されている。
幅180cm・高さ95cmの御殿は、高床式の書院造で、三つ棟の豪華なもの。京都の二条城二の丸御殿に似たところが随所に見られる。棟飾りなどには朱色の漆塗り、龍・鶴・松などが本金の蒔絵で描かれており、別注による高価なものだとしている。今作ると300万円もするとし、当時の小樽の繁栄がしのばれるものとなっている。
この御殿に収められた人形は、京都の職人によって作られた。殿(との)は、亀甲唐花紋の束帯、姫(ひめ)の衣装は桐唐草に金駒縫いが刺繍で描かれている。計15体の人形すべての顔の表情が違う。雛道具の中でも、毛植えの牛車が特徴的で、張子の牛に鳥の羽が毛植えされた珍しいものだという。
この豪華雛人形は、傷だらけで旧住吉中に展示されているのが見つかった。蔵の人形ギャラリー瀧本を経営する株式会社瀧本の進藤幸正代表取締役が、「経年の傷みが激しく、今修復しないと、今後はもたない」と、同校閉校後にこの雛人形を保管していた市教委に、無償の修復作業を打診し、10月から作業を行っていた。
約50点のパーツがある御殿を分解し、無くなっている部品や壊れているものを修復。ねずみに噛まれた人形の髪や顔、衣服も、ひとつひとつ丁寧に修理した。進藤社長は、「汚れを取る方法は沢山あるが、顔の表情を変えずに直すのは大変な作業だった」と話す。
当時の豪華な姿に蘇った雛人形は、“後の雛まつり”として長寿を願う風習があった旧暦の9月9日にあたる10月19日の重陽の節句に合わせ、10月18日(木)から28日(日)までの10日間、同ギャラリーで、市民の思い出の雛人形6点とその他の雛人形約30点とともに展示している。
「市の担当者が変わっても、この御殿を組み立てられるように、50点のパーツの設計図の資料を作りたい。きちっとした形で残せることになって良かった。戦時中に、これだけの豪華なものを作らせた財力が小樽にあったという証だ」(進藤社長)と、雛人形を見つめていた。
札幌から観光で来ていた尾﨑良子さん(58)は、「御殿の飾りを見たのは初めて。学校に寄贈されたものと聞いて驚いた。修復でこんなにきれいになり素晴らしい」と、熱心に鑑賞していた。
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