小樽の養魚場の人工池で飼育されている「イトウ」のオスとメスが、自然産卵・受精するという非常に珍しい光景が現れ、関係者を驚かせている。
人工池で自然産卵したイトウは、元小樽水産高校教員の平野井篤さん(70)宅の養魚場(桜5)で飼育されているイトウ。
平野井さんは、10年前から人工繁殖が一番難しいとされるイトウの養魚を始めた。イトウは、国際自然保護連合のレッドリストで、最上位の「絶滅危惧種1A類」に登録される幻の魚。稚魚の生残率が極端に悪く、本州では住処を失い、北海道の限られた川のみで生息している貴重な魚。
平野井さんが人工池で飼育するイトウは、北大水産学部からもらった中型・大型の8匹、2年前に初めて人工ふ化に成功した27匹、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター七飯淡水魚実験所から寄贈された釧路湿原4代目の親魚からふ化した85匹の合計120匹。自宅の庭に、直径5m・深さ60cmの八角形の人工池を作って飼育している。
この北大水産学部からもらった中型・大型の8匹のうちオス・メス1匹ずつが、4月29日に産卵・受精した。この日の午前、平野井さんは、いつも通り池のフンを掃除するため、池を覗いたところ、約1,000粒の受精卵を発見した。「見たことのない光景。オスとメスが寄り添って産卵したのか」と、急いでポンプで受精卵を吸い取って、人工のふ化水槽に移した。
サケ科のイトウは、水深15~20cmのところまで川を遡上し、川底の砂や小石弾き飛ばし、くぼみを作って産卵して受精する。しかし、この自然環境と180度違う人工の池の中で産卵し受精した。「こんなことは聞いたことがない。色々な文献にもない」(平野井さん)と驚いている。
ふ化までに10℃の水温で33日ほどかかるとしており、うまくいけば5月中にふ化するかもしれない。現在、ふ化水槽で、死んでしまった卵を取り除く作業を丹念に行っている。
5月18日(金)現在、「今日見た限りでは、発眼した卵が散見されるので、もしかすると本当にふ化するかもしれない」と期待を寄せている。(写真提供:平野井篤さん)
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