市立小樽病院と市立小樽第二病院を統合し、約200億の巨費を投じ、新市立病院建設を目指している小樽市長の構想に、次第に暗雲が漂い始めた。
2期目の任期も残すところあと1年6ヶ月となった山田勝麿小樽市長は、これまで2期目の公約である、「健康づくりと市立病院の統合新築」を目指していた。
このため2003年6月には、新市立病院基本構想を取りまとめ発表した。同構想では、現在の市立病院が老朽化、狭隘化が顕著となっていることと、2つに分かれている不便さを解消し、地上8階・地下1階の本館と地上4階・地下1階の別館の2棟からなる、標榜診療科に内科・外科など21科目を持つ総合病院を、総工費252億円の巨費を投じ建設推進することにしていた。
しかし、現在、小樽市は、「財政再建団体」へ転落の危機の真っ最中で、議会、医師会などからも同構想に対し、異論が続出、見直しを迫られることになった。この結果、2004年12月には同構想を精査・検討し、諸費用の見直しを行い、約69億円を減額し、計約194億円の費用をはじき出した。この資金は借金による起債で賄うことにしており、返済額も入れると総額264億円と試算された。
この巨額の借金による新市立病院の建設用地は、市で進めていた小学校の統廃合による量徳小学校跡地をあてにしていた。しかし、PTA、保護者など市民の猛反対で、小学校の統廃合の白紙撤回を余儀なくされるという窮地に追い込まれた。このため、計画は、急遽、第2候補地の大規模ショッピングセンターに隣接の築港地区のJR用地に変更された。
この建設予定地の築港地区への変更で、開会中の9月市議会・第3回定例会でも、大きな論議を呼び、市長の支持母体である保守系各会派からも、大きな疑問符が投げかけられる共に「再考」を迫られ、商業団体の市商連などからも「反対」を迫られる事態となった。このため、「日本一の貧乏都市」山田市長の、巨額な借金をさらに上乗せする公約推進に、次第に暗雲が拡がり始めた。
築港地区での建設では、新たに約15億円の用地取得費がかかることになり、さらに費用が膨らむことになる。このため、開会中の市議会第3回定例会の各会派代表質問でも、自民党、平成会、民主・市民連合からも、大きな疑問と反対の声が上がった。
自由民主党の会派代表質問に立った小前真智子議員は、「新病院の築港地区への建設反対運動の団体を含め、反対運動が一層活発になってきた場合、どのように反対者の理解を経て建設推進をしようとしているのか」と、反対の声が上がる中での築港地区での建設に、疑問符を付けての質問を行なった。これに対し山田市長は、「新病院の建設は施設の老朽化と2つの病院を抱えている非効率化を考えると、早急に解決していかなければならない課題でありますので、築港地区での建設を精力的に進めていかなければならないと考えている。反対運動が強まった場合、こういう経緯を十分説明しながら理解してもらうよう努めたい」と、あくまで築港地区での建設推進を強調した。
平成会の会派代表質問に立った上野正之議員は、新市立病院建設問題で多岐に渉る質問を行った。「築港地区の候補地は土地利用計画の変更手続きや、この地区が病院に適しているかなど、数々の問題がある。何よりも療養にふさわしいところでなければなりません。後ろには、高速道路へ通じる主要幹線道路があり、前にはパチンコ店やショッピングアミューズ施設など、小樽市でもっとも賑わいのある、又、将来的にも賑わいを拡大しなければならないと定めた地区で、どうして、病気を治し療養出来るのでしょうか。現在の構想は、今の小樽市の財政状況において、不可能に近い状況です。新病院オープンまで、現在の小樽病院がもつのでしょうか。その他色々なことを考え合わせると、安易に決断せず、将来にわたって禍根を残さないためにも再考をお願いしたい」と、「公約を推し進めるのか、思い切って見直していく考えがあるのか」を強く迫った。しかし市長は、「築港地区は土地の取得費がかかりますし、また、都市計画等の規制を受けておりますが、交通アクセスに優れた地域で、必要面積の確保が可能なため、築港地区での建設について具体的な検討に入ったところですので、ご理解を頂きたい」と答弁した。
また、民主市民連合の代表の山口保議員も、「築港地区に移転するとした検討方針に、市商連が反対の意思を表明した。候補地選定の経緯についてと、新築にあたってどのような病院が望ましいのか、診療科目の絞込みや、新たに加えるべき科目など、市民に期待され、安心出来る病院が出来るのか、中味の問題を心配している」と、新病院建設を危惧する質問を行った。市長は「新病院においては、地域の基幹病院として、より一層質の高い医療の提供が出来るよう様々な検討が必要と考えている」と抽象的に答えた。
新病院の築港地区への変更は、議会や市商連の反対で、にわかに今後の推移がもっとも注目される課題となった。2期連続の赤字財政を組む禁じ手で予算編成をし、財政破綻を露呈している市が、これまでの約1,329億円の借金総額に、さらに巨額の借金を加え、巨額の維持費を必要とする新病院建設が、“角を矯(た)めて牛を殺す”喩えの通り、新病院建設を矯めて(矯正して)、小樽市を殺すことになる可能性が大きい。
市の医師会では、「小樽市の財政難、将来の人口推移などを考慮すれば、総花的病院建設は無謀と言うべきである。・・・むしろ、新市立病院の建設を中止し、現両病院を廃止し、既存の病医院に機能を委託・充実させて、市立病院の役目を代行させるべきとの意見もある」と付記されていた。
にわかに広まる新病院に対する「再考」、「反対」の声を、市が自ら招いた財政危機に、屋に屋を重ねる無謀な方針のまま推進されるのか。市民の声を聞いて白紙撤回した小学校の統廃合の例を学ぶのか。市内の最重要課題になった、この新病院建設問題への今後の市長の対応と、それに対する市民の反応とが極めて注目されることとなった。
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