世界初人工繁殖の「白いイトウ」 小樽の養魚場で10年


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 世界で初めて人工的に繁殖した「白いイトウ(アルビノ)」が誕生してから10年経ち、このうちの1匹が市内の養魚場で、今も元気に泳いでいる。
 「絶滅危惧種1A類」に登録の珍しい淡水魚イトウの中でも、さらに稀な「白いイトウ」が泳いでいるのは、市内の平野井「いとう」養魚場(桜5・平野井篤さん宅)。
 イトウは、サケ科の中でも最大級の魚で、唯一、春に産卵する。本州では絶滅し、道内では後志や宗谷、釧路などに分布する。しかし、道内の河川環境も悪化しており、生息数が激減した。国際自然保護連合のレッドリストで、最上位の「絶滅危惧種1A類」に登録されている。
 小樽水産高校の教員だった平野井さんは、北大水産学部の協力で1990(平成2)年4月から同校に淡水魚の「ウォッチング・パーク」を作り、「イトウ」の養魚を始めた。自宅でも研究を行い、2005(平成17)年から人工授精に取り組んだ。初年は、4,000粒の卵を採卵し、うち3,000粒がふ化する大成功を収めた。関連記事
 この自宅の養魚場には、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター・七飯淡水実験所から譲り受けた「白いイトウ」がいる。この「白いイトウ」は、同大実験所が10年がかりで成功させた世界で初めて人工的に大量繁殖したうちの1匹。
 1989(平成元)年に通常のイトウの交配で生まれた2万匹の中から「白いイトウ」が発見された。1993(平成5)年には、このオスの「白いイトウ」と通常のイトウのメスを交配させた。しかし、結果は全て通常のイトウの稚魚ばかりだった。6年後の1999(平成11)年、1993(平成5)年に生まれた通常のイトウ同士で交配させたところ、3,200匹の中から「白いイトウ」の稚魚が800匹も誕生した。
 2000(平成12)年に、この800匹のうちの3匹が、平野井「いとう」養魚場に移譲された。3匹のうち2匹は3ヶ月後に死亡したが、1匹(オス)は今でも元気に生きている。誕生から10年経ち、体長約70cm・体重約5kgにまで大きく成長した。
 同大実験所の木村志津雄文部技官によると、この「白いイトウ」は、「メラニン色素が欠乏のため白くなり、先天性白皮症(先天性色素欠乏症)と言われている。自然界でも突然変異として発生が見られるが、色が目立つため、天敵に狙われやすく淘汰される。目が赤く、視覚障害を持ち、餌をとる事が上手でない。日光(紫外線)に弱く、白からやや黄色みかかった色をする。従って、自然界での生存は極めて稀」という。
 平野井さん(73)は、「1999年に生まれた『白いイトウ』800匹が現在どれくらい生きているかは分からない。留辺蕊の水族館に2匹いて、士別のサケ科学館にもいる。千歳にもいると思う。今年で誕生から10年経ち、これだけ大きくなっているのは貴重だ。イトウの人工授精で誕生したものは、寿命が12年と自然のイトウの寿命の15年よりも短いというのが定説。あと2年ぐらいは生きていてくれたら」と話している。
 世界で初めて人工繁殖に成功した「白いイトウ(アルビノ)」。平野井養魚場にいるイトウは、白というよりも黄色が強く、太陽の光があたると黄金に光っているようにも見える。幻のイトウの中でもさらに稀な「白いイトウ」は、平野井さんの愛情を受けながら、小樽で元気に生き続けている。
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